酸味が主役の肉じゃがという選択肢
「肉じゃが」と聞いて思い浮かべるのは、甘辛い味つけとほっこりした食卓。
だが、今回ご紹介する「うす塩ねり梅の肉じゃが」は、その固定観念を軽やかに裏切ってくれる。
主役は“甘み”ではなく“酸味”。梅の酸が中心にあることで、全体の味わいがキリッと引き締まり、牛バラの旨味とじゃがいもの甘さがぐっと立体的に感じられる。
脂っこさがなく、それでいて満足感はしっかり。和食の軽やかさと奥深さを両立した、酒の肴にふさわしい肉じゃがだ。
酔鯨 特別純米の力強さと調和
この料理に合わせたいのが、「酔鯨 特別純米」。
高知の自然に育まれたこの一本は、端正なキレとともに、米の旨みをしっかりと残してくれる。
冷酒ではシャープな酸味と調和し、ぬる燗にすれば出汁の深みと一体化する──温度によってペアリングの表情が変わるのも面白い。
「酔鯨」は一見ストイックに感じられるが、実は懐の深い酒。うす塩ねり梅の酸を包み、肉じゃがの余韻に寄り添ってくれる存在だ。
" カクテルとは、料理に寄り添うだけではない。 テーブルのストーリーを象る、いわばテーブルのストーリーテラーである。"
じゃがいもの旨みを生かす控えめな設計
本レシピの隠れた主役は、やはりじゃがいも。
ねり梅の酸があることで、じゃがいもの自然な甘みがより鮮明に浮かび上がる。
砂糖やみりんで煮込むのではなく、梅と出汁でじっくり煮ることで、素材そのものの味が前面に出てくる。
しかも、下ごしらえでレンジ加熱しておけば煮崩れもしにくく、食感もほどよく残る。
これにより、単調になりがちな煮物の中に、口当たりの変化と楽しさが生まれている。
梅がつなぐ味の設計思想
「酸で整える」という発想が、料理を軽く、そして現代的なものにしている。
ねり梅はただの風味づけではなく、塩味と旨味、そしてわずかな苦みすらも一体化した調味料だ。
甘みでまとめる従来の肉じゃがと比べて、重たくならず、酒の邪魔をしない。
こうした構成だからこそ、「酔鯨」のような骨太な純米酒とも寄り添える。梅が“和の酸”として、料理と酒の橋渡しをしてくれているのだ。
結びに──静けさの中の奥深さを味わう晩酌
この肉じゃがと酔鯨のペアリングには、派手さはない。だがその静かな余韻に、何度も箸が進む。
酸味、旨味、甘味、それぞれが前に出すぎず、綱引きのような緊張感と調和を持っている。
ゆっくりと時間をかけて、一皿と一杯の境界が曖昧になる瞬間を楽しんでほしい。
それはきっと、心までほどけるような晩酌時間をもたらしてくれる。
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プロフィール
鈴木海人 – バーテンダー/俳優
イベントバーテンダー・カクテルレシピ考案 / Vtuber「上戸アペリ」総合運営
「一杯の酒に、人生の余韻を。」
都内バー勤務を経て、現在はオンライン配信を拠点に活動。クラシックなカクテルから、季節のハーブや自家製ボタニカルを用いた一杯まで、記憶に残る味と香りを設計する。酒の知識だけでなく、音楽、言葉、香りを複合的に操る感性で、グラスの中に世界観を築き上げるスタイルが特徴。
“飲むことで、誰かの心が少しほどけるなら”——そんな想いを胸に、日常と非日常のあわいに立つバーテンダー。あなたの夜に、静かで鮮烈な余韻を届ける。





