出汁に沈めるという贅沢
火を通したばかりの加茂ナスを、じゅっと出汁に沈める。
ジュワっと音を立てて、表面がゆっくりと落ち着いていく。
ナスは、油を吸うことも、水分を受け入れることもできる。
この器用な野菜に、出汁の旨みをまるごと染み込ませる──
それが、 揚げびたし という料理の本質だ。
ミシュラン風のアレンジでは、鷹の爪、生姜、柑橘の香りを効かせ、
一番出汁をベースにした“複層的なあつゆ”を用いる。
仕上げには、鰹節と大葉、すりおろし生姜。
出汁に沈めて冷やすことで、 温度の変化が味を深くする 。
やさしい料理に見えて、実はかなりの集中力を要する。
焼酎「まねきつね」という存在
合わせる酒は、 京都・玉乃光酒造が手がける焼酎『まねきつね』 。
この焼酎は、伏見の酒蔵らしい 清酒蔵発の香りと米の優しさ を兼ね備えている。
アルコールは控えめ、香りはほのか、
しかし口に含むと、まるでふわりと白い湯気が立つように香味が広がる。
その香りが、ナスの皮に閉じ込められた出汁の湯気と重なって、
“温度を持たない出会い”を生み出す。
焼酎というと、芋や麦の主張があるものも多いが、
この「まねきつね」はあくまで 引き算の美学 。
旨みを口に残さず、舌をすっと洗って、また料理の世界に戻してくれる。
" カクテルとは、料理に寄り添うだけではない。 テーブルのストーリーを象る、いわばテーブルのストーリーテラーである。"
なぜこのペアリングなのか
ナスは、口の中で崩れると同時に、
中から熱を吸った出汁と香りが広がる。
そこへ「まねきつね」をひと口。
ほんのりとした米の甘さと、冷えた透明感が、
その香りを打ち消さず、 ふわっと拡張させてくれる 。
また、仕上げの生姜や柑橘皮の香りに、
焼酎のやさしいアルコールが重なることで、
“清涼感のある余韻”が食後に続く。
食べ終えたあと、口の中に強さは残らない。
残るのは、ただ、 味の記憶と、きれいな余白 。
静かな料理に、静かな酒を
この組み合わせは、語ることを強要しない。
料理も酒も、主張しすぎず、ただ寄り添う。
静かに考えごとをする夜や、音楽を小さくかけた食卓 にこそふさわしい。
ナスの中に沁みた出汁の温度と、
グラスの底に残る焼酎の余韻。
そこに、今日という一日がゆっくりと染み込んでいく。
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プロフィール
鈴木海人 – バーテンダー/俳優
イベントバーテンダー・カクテルレシピ考案 / Vtuber「上戸アペリ」総合運営
「一杯の酒に、人生の余韻を。」
都内バー勤務を経て、現在はオンライン配信を拠点に活動。クラシックなカクテルから、季節のハーブや自家製ボタニカルを用いた一杯まで、記憶に残る味と香りを設計する。酒の知識だけでなく、音楽、言葉、香りを複合的に操る感性で、グラスの中に世界観を築き上げるスタイルが特徴。
“飲むことで、誰かの心が少しほどけるなら”——そんな想いを胸に、日常と非日常のあわいに立つバーテンダー。あなたの夜に、静かで鮮烈な余韻を届ける。





