ガメイという品種|ボジョレーの味を決めるブドウ

ガメイという品種|ボジョレーの味を決めるブドウ

流木の上に黒ブドウの房と、赤ワインを注いだグラス

読みもの|ボジョレー・ヌーボー編の続きバナナの香りの
正体
ガメイという品種と、新酒の造り方

前回の記事ボジョレー・ヌーボーとは?「新酒」の意味と解禁日の由来

ボジョレー・ヌーボーの「新酒」の意味と、解禁日の由来はわかった。けれど、あの軽やかな味わいは、いったい何から生まれるのでしょうか。

この記事では、ライターのミナとシェフソムリエの中嶋さんと一緒に、ボジョレーの主役であるブドウ「ガメイ」の特徴や、新酒ならではの造り方、そして「バナナの香り」の正体を追いかけます。

プロローグ
グラスの横に、バナナが一本

ミナ

ミナ

グルメ雑誌のライター。ボジョレー・ヌーボーの取材で、ワインの面白さに目覚めはじめた。

中嶋浩希

中嶋浩希(なかじま こうき)

出張料理サービス「希望のひと皿」代表のシェフソムリエ。やわらかな物腰で、どんな質問にも丁寧に答えてくれる。松丸産直デパートのスタッフ。

ミナが仕込み場をのぞくと、中嶋さんはワイングラスを鼻に近づけては、テーブルの上の何かと見比べていた。グラスの横には、なぜかバナナが一本置かれている。

赤ワインのグラスの横に、バナナが一本置かれたテーブル
グラスの横に、なぜかバナナが一本
ミナ中嶋さん、何してるんですか?……バナナ?
中嶋さんあ、ミナさん。いらっしゃいませ。ちょうど香りの答え合わせをしていたところなんです。よろしければ、このグラスの香りをかいでみていただけますか?
ミナ……いちごみたいな甘い香り。あと、本当にバナナっぽい! ガムみたいな香りもします。
中嶋さんさすがですね。でも、このワインにバナナは一本も入っていないんですよ。ブドウだけで造られています。
ミナえっ、じゃあこの香りはどこから?
中嶋さんその謎を解く鍵が、「ガメイ」というブドウと、ちょっと変わった造り方なんです。順番にお話ししますね。

第1幕
ガメイという品種|皮の薄い、明るいブドウ

ミナガメイって、どんなブドウなんですか?
中嶋さんフランス生まれの黒ブドウです。ブルゴーニュ地方からボジョレーに広がったとされていて、今ではボジョレーの赤ワインは、ほぼすべてがガメイから造られているんですよ。
棚に実った、紫がかった黒ブドウの房
皮の薄い黒ブドウの房(イメージ)
ミナボジョレーの味=ガメイの味、なんですね。
中嶋さん土台はそうですね。ガメイは皮が薄くて、渋みのもとになるタンニンが少ないんです。カベルネ・ソーヴィニヨンのようなしっかりした赤と比べると、口当たりがとてもなめらかなんですよ。
ミナ香りはどうですか?
中嶋さんチェリーやラズベリー、いちごのような赤い果実の香りが中心です。明るく生き生きとした酸があって、それが軽やかさを支えてくれます。スミレやライラックのような、お花の香りが出ることもあるんですよ。
ミナなんだか、春の果物かごみたい。
中嶋さん素敵なたとえですね。まさに、そんなチャーミングなブドウなんです。

ミナの取材メモ|ガメイの特徴

  • 出自:フランス原産の黒ブドウ。ブルゴーニュ地方からボジョレーへ広がったとされる
  • ボジョレーとの関係:ボジョレーの赤ワインは、ほぼすべてガメイ
  • 果実味:チェリー、ラズベリー、いちごなど赤い果実
  • 酸味:明るく生き生きとした酸
  • タンニン:皮が薄く少なめ。口当たりがなめらか
  • 香り:スミレやライラックのような花の香りが出ることも

第2幕
ヌーボーが軽い理由|ブドウを潰さずに発酵させる

ミナでも、ガメイの香りはいちごやチェリー。バナナは出てきませんでした。
中嶋さんよく聞いていらっしゃいますね。そこで登場するのが、「炭酸ガス浸漬法(たんさんガスしんしほう)」という造り方です。フランス語では、マセラシオン・カルボニックと呼びます。
ミナ炭酸ガス……?
中嶋さん普通の赤ワインは、最初にブドウを潰して、果汁と皮を一緒に発酵させます。この方法では、ブドウを房のまま、潰さずに密閉したタンクに入れて、中を炭酸ガスで満たすんです。
普通の赤ワイン炭酸ガス浸漬法 ブドウを潰して 果汁と皮を一緒に発酵 CO₂ 房のまま、潰さずに 炭酸ガスのタンクへ
左:普通の赤ワイン(ブドウを潰す)/右:炭酸ガス浸漬法(房のまま)
ミナ潰さないのに、ワインになるんですか?
中嶋さんそこが面白いところなんです。酸素のない環境に置かれると、ブドウの粒の中で、ブドウ自身の酵素が糖を分解しはじめます。これを「細胞内発酵」といいます。粒の中のアルコールが1.5〜2%ほどになると皮が自然に裂けて、果汁が流れ出す。そこから先は、酵母による普通の発酵が進んでいきます。
ミナブドウが、自分の中で発酵を始めるんだ……。
中嶋さん皮や種を強く潰して長く浸さないので、渋みのタンニンはあまり出ません。でも色はきれいに出て、鮮やかな赤紫になります。しかも発酵は数日から1週間ほどで進むので、早く出荷できるんです。
ワイン工場の瓶詰めのラインで、タブレットを確認する作業員
発酵が早いから、早く瓶詰めして出荷できる(イメージ)
ミナだから新酒に向いているんですね。

炭酸ガス浸漬法の5ステップ

  1. 房のまま、密閉タンクへ潰さずに、房ごとそっと入れる
  2. 炭酸ガスで満たす酸素のない状態にする
  3. 粒の中で「細胞内発酵」ブドウ自身の酵素が、糖を分解しはじめる
  4. 皮が裂けて、果汁が出る粒の中のアルコールが1.5〜2%ほどになると、皮が自然に裂ける
  5. 酵母の発酵へここからは普通の発酵。実際には両方が並行して進む

※実際のボジョレーでは、タンクの下のほうのブドウが自分の重さで潰れて発酵し、そこで出た炭酸ガスが上の房を覆う「半炭酸ガス浸漬法」も使われています。

第3幕
バナナとガムの香りの正体

ミナそれで、あのバナナの香りは……?
中嶋さんお待たせしました。実はあの香り、ガメイというブドウそのものの香りではないんです。新酒ならではの造り方や発酵の過程で、普段とは違う香りの成分が生まれます。その代表が、エステル類と呼ばれる成分なんです。
ミナエステル……。
中嶋さんこのエステル類が、バナナやラムネ、ガムのような甘く華やかな香りのもとになります。ガメイが持っているいちごやラズベリーの香りに、造り方から生まれたバナナやガムの香りが重なる。それが、ボジョレー・ヌーボーらしい「新酒の香り」なんですよ。
ミナブドウの香りと、造り方の香りの二重奏なんだ。
中嶋さんまさにそうなんです。ですから、バナナと並べて香りを比べていたというわけです。謎がひとつ解けましたね。

※写真はイメージです

ミナの取材メモ|香りの出どころ

  • ガメイ由来:いちご、ラズベリー、チェリーなど赤い果実、スミレなどの花
  • 造り方由来:バナナ、ラムネ、ガム、キャンディのような甘く華やかな香り(エステル類)
  • 合わさって:ボジョレー・ヌーボーらしい「新酒の香り」になる

第4幕
ボジョレーの味を決める3つのこと

ミナじゃあ、ボジョレーの味はガメイと造り方で決まる?
中嶋さんもうひとつ、大切なものがあるんです。「テロワール」、つまり土地の土壌と気候ですね。ボジョレーの味は、品種・造り方・テロワールの3つが組み合わさって生まれます。
パリブルゴーニュ地方 ボジョレー地区北部は花崗岩質の土壌 ※位置関係のイメージ(地形は簡略化しています)
ブルゴーニュとボジョレーの位置(イメージ)
ミナ土地も関係あるんですか?
中嶋さんボジョレー、特に北部には花崗岩質の土壌が多くて、それが酸の輪郭や、ミネラルを思わせるニュアンス、チェリーやスミレの余韻につながるとされています。冷涼な気候と寒暖差は、酸を保って、果実味を重くしすぎない軽快なスタイルを支えてくれるんですよ。
なだらかな丘に広がるブドウ畑と、点在する家 現場|丘のブドウ畑
なだらかな丘に広がるブドウ畑(イメージ)
ミナヌーボー以外のボジョレーもあるんですよね?
中嶋さんはい。「クリュ・ボジョレー」と呼ばれる上位の産地では、長めに醸造したり熟成させたりすることもあります。そうすると、ガメイの酸と果実味に、土地ならではの複雑さが加わって、寝かせる楽しみも出てくるんです。
ミナ炭酸ガス浸漬法は、ボジョレーだけの造り方なんですか?
中嶋さんいいえ、世界中で使われているんですよ。ただ、ボジョレー・ヌーボーほど象徴的な産地はないと思います。同じ造り方でも、品種や土地が違えば、仕上がりはまったく変わるんです。
品種・造り方・テロワールの3つの円が重なり、中心がボジョレーの味になる図
品種・造り方・テロワールが重なって、ボジョレーの味になる

ミナの取材メモ|ボジョレーの味を決める要素

  • ガメイ種品種赤い果実の香り、明るい酸、少ないタンニンという土台
  • 炭酸ガス浸漬法造り方フレッシュな果実の香り、少ないタンニン、鮮やかな色
  • 花崗岩質の土壌テロワール酸の輪郭、ミネラルのニュアンス、チェリーやスミレの余韻
  • 冷涼な気候・寒暖差テロワール酸を保ち、果実味を重くしすぎない
  • 熟成・醸造の違いヌーボーは果実の香りが主役。クリュは土地の個性と熟成の楽しみ

ミナの取材メモ|世界の炭酸ガス浸漬法

  • スペイン
    リオハ・アラベサ
    テンプラニーリョの若飲み向けの赤
  • フランス
    ラングドック、ローヌ
    渋みの強いカリニャンをやわらげる
  • イタリアサンジョヴェーゼなどの新酒「ヴィーノ・ノヴェッロ」
  • オーストラリア、
    アメリカなど
    シラーズ、グルナッシュ、ピノ・ノワールなどで果実味を強調

※海外では半炭酸ガス浸漬法が多く、ボジョレー・ヌーボーのようなバナナやガムの香りが強く出るとは限りません。

エピローグ
軽やかな赤に、牛肉の旨みを

話を聞き終えるころ、中嶋さんはバナナを片づけ、代わりに一枚の皿をテーブルに置いた。

漆の盆と石皿に盛り付けた、ビーフ・ズーシー
ビーフ・ズーシー
ミナこれは?
中嶋さんビーフ・ズーシーです。せっかくガメイのお話をしたので、ぜひ合わせていただきたくて。
ミナ赤ワインとお肉なら、もっと渋い赤のほうがいいんじゃないですか?
中嶋さんそう思われる方も多いんですよ。でも、渋みの少ないガメイだからこそ、牛肉の旨みをじゃましないんです。明るい酸が脂の後味をすっと流してくれて、赤い果実の香りがお肉の甘みを引き立ててくれます。重たいワインより、ずっと気軽に楽しめると思いますよ。
ミナ……本当だ。お肉の味がちゃんとして、口の中が軽い。
中嶋さんよかったです。ブドウのこと、造り方のこと、土地のこと。少し知るだけで、同じ一杯がもっと身近になります。ヌーボーの軽やかさは、ガメイと炭酸ガス浸漬法から。ボジョレーの個性は、ガメイと花崗岩の土地から。この二つを覚えておいていただければ、もう大丈夫ですよ。

ブドウの香りと、
造り方の香りの二重奏。

早見表
ガメイとボジョレーの基本

ガメイ
フランス原産の黒ブドウ。ボジョレーの赤はほぼすべてガメイ
ガメイの味
赤い果実、明るい酸、少ないタンニン、ときに花の香り
炭酸ガス浸漬法
房のまま炭酸ガスのタンクへ。粒の中で発酵が始まる
造り方が生む味
渋みが少なく、色は鮮やか。数日から1週間ほどで発酵
バナナ・ガムの香り
品種ではなく、造り方や発酵から生まれるエステル類
テロワール
花崗岩質の土壌と冷涼な気候が、酸と軽快さを支える
ヌーボーとクリュ
ヌーボーは果実の香りが主役。クリュは土地の個性と熟成の楽しみ

中嶋さんが合わせた一皿は、松丸産直デパートでお取り寄せいただけます。

中嶋さんおすすめ|ガメイに合わせたい一皿
箸で持ち上げた、ビーフ・ズーシーのひと切れ

松丸産直デパートおすすめ

ビーフ・ズーシー

北海道の老舗・中井英策商店が、いずしの伝統の製法を和牛に応用した一品。噛むほどに広がる和牛のうま味と、発酵のまろやかな酸味は、渋みの少ないガメイの赤とよく合います。冷凍でお届けし、解凍するだけで楽しめます。

¥6,048税込・送料無料

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調査報告
まとめ

  • ガメイは、ボジョレーの赤ワインのほぼすべてに使われる、皮の薄い黒ブドウ
  • 赤い果実の香り、明るい酸、少ないタンニンが、軽やかな味わいの土台になる
  • ヌーボーは「炭酸ガス浸漬法」で、ブドウを房のまま、潰さずに発酵させて造る
  • バナナやガムの香りは、品種ではなく造り方や発酵から生まれるエステル類によるもの
  • ボジョレーの味は、品種・造り方・テロワールの3つが重なって生まれる

ブドウのこと、造り方のこと、
土地のことを少し知るだけで、
いつもの一杯がもっと楽しくなります。
次にボジョレーを飲むときは、
香りの「二重奏」を探してみてください。

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