冬の樽をひらく|寿司の祖先「いずし」の食べ方と、合うお酒の選び方

冬の樽をひらく|寿司の祖先「いずし」の食べ方と、合うお酒の選び方

雪の積もる北海道の漁港。夕暮れの空の下に漁船が並ぶ

読みもの|探偵シリーズ 第3話冬の樽の
事件簿
寿司のご先祖さまに、今夜の一杯を。

この物語はフィクションです。登場人物は架空の人物で、人物の写真はイメージです。いずしの歴史や作り方などの情報は、公的な資料などにもとづいています。

握りでも、ちらしでもない。米と麹と魚を樽に漬け、冬のあいだに発酵させる「いずし(飯寿司)」。北海道で受け継がれてきたこの発酵食は、実は寿司のご先祖さまにあたる食べものです。

この記事では、ライターのミナと市場の仲卸・源さんと一緒に、いずしのルーツや作り方、おいしい食べ方、そして「今宵の一杯」に合うお酒の選び方を探っていきます。

プロローグ
樽の中の「お寿司」

ミナ

ミナ

グルメ雑誌のライター。ホタテ、しいたけに続き、今度は「冬の晩酌特集」を任された。

源さん

源さん

市場で長年、魚介を扱ってきた仲卸。口は悪いが説明は的確。酒も魚と同じくらい好き。

晩秋の夕方。晩酌特集の相談をしようと、ミナは市場の源さんの店を訪ねた。店の奥で、源さんは大きな木樽にかがみ込み、何かを一段ずつ敷き詰めている。

ミナ源さん、何してるんですか?
源さん見りゃわかるだろ。漬けてるんだ。
木樽の中に、両手で材料を押し込むように詰めている
材料を樽に詰めていく(イメージ)
ミナお米と……野菜と……魚? お漬物ですか?
源さんいずしだ。米と麹と魚を樽で発酵させる、北海道の冬の味だよ。毎年この時期に仕込んで、正月に開ける。
ミナ「すし」なのに、シャリもないし、握ってもない。
源さん握りより、ずっと古い寿司だからな。……ま、こいつが食えるのはまだ先だ。今日はこっちで我慢しろ。

源さんが棚から下ろしたのは、手のひらにのるほどの小さな木樽。ラベルには「キンキのいずし」とある。

ミナかわいい!
源さん北海道で、高級魚のキンキを米と米麹で漬けたやつだ。こいつに合う酒まで突き止めたら、晩酌特集のトリは決まりだな。
手のひらにのる小さな木樽に入った、キンキのいずし(140g)
証拠写真①手のひらにのる木樽。キンキのいずし(140g)

源さんが出した「キンキのいずし」を見る

第1幕
寿司の祖先|東南アジアから、北の浜へ

ミナ握りより古い寿司って、どういうことですか?
源さん話は日本の外から始まる。東南アジアの稲作地帯じゃ、古くから川魚を米と一緒に発酵させて保存してたんだ。それが中国大陸などを経て、日本に伝わったと言われてる。
ミナ寿司のルーツは「保存食」だったんだ。
源さんそうだ。米で発酵させる寿司を「なれずし」って言う。時代が進むと、酢を使って手早くつくる寿司が生まれて、それが今の握りやちらしにつながった。いずしは、なれずしの流れをくむ寿司ってわけだ。
ミナじゃあ、北海道のいずしは、なれずしと同じもの?
源さんそこが少し違う。北海道のいずしは、米に加えて米麹を使うんだ。麹を使ういずしは、室町時代にはつくられていたとされてる。
東南アジア稲作地帯 中国大陸など 日本 分かれ道 米で発酵させるなれずし → いずし北海道は米麹も使う 酢を使って手早く握り・ちらし今の寿司へ 魚を米で発酵させる保存食
寿司のルーツ(伝わり方はいくつかの説があります。図はイメージです)

ミナの取材メモ|いずしのルーツ

  • ルーツ:東南アジアの稲作地帯で、川魚を米と発酵させた保存食。中国大陸などを経て日本へ伝わったと言われる
  • 系譜:酢を使う今のお寿司ではなく、発酵させる「なれずし」の流れ
  • 北海道のいずし:米麹を使って発酵させる。麹を使ういずしは、室町時代にはつくられていたとされる

第2幕
樽の中|家の数だけ、いずしがある

ミナ樽の中では、何が起きてるんですか?
源さんまず、塩抜きした魚を酢に漬ける。そこへ硬めに炊いて冷ました米、キャベツやニンジン、ダイコン、ショウガ、それに麹を混ぜて樽に詰める。重石をのせて、寒いところでじっくり寝かせるんだ。
重石・落とし蓋 野菜 魚 米・米麹 これをくり返し重ねる
樽の断面(重ね方は家庭や地域によって異なります。図はイメージです)
ミナ麹の力で、乳酸発酵するんですね。
源さんほかのなれずしより発酵期間が短いから、匂いは比較的おだやかだ。その分、魚の脂のコクがちゃんと残る。
ミナ魚はキンキだけ?
源さん北海道の浜じゃ、サケ、ニシン、ホッケ、サンマ、ハタハタと、その土地で獲れる魚を使ってきた。「家の数だけいずしがある」って言われるくらい、配合も味も家ごとに違う。

北海道では、晩秋から初冬にかけて漬け込み、正月ごろに樽を開ける習慣がありました。いずしは冬の貴重なたんぱく源であり、家族や親戚が集まるハレの日の食卓を彩るごちそうでもありました。手間と時間がかかるため、家庭で漬ける機会は減っていますが、今では専門店やスーパーでも買えるようになり、各地で食文化を受け継ぐ取り組みも続いています。

ミナの取材メモ|いずしの作り方と文化

  • 作り方:塩抜きした魚を酢に漬け、米・野菜・米麹と混ぜて樽へ。重石をのせ、低温で発酵・熟成させる。期間は作り方によって異なる
  • 味:発酵期間が比較的短く、匂いはおだやか。魚の脂のコクが楽しめる
  • 文化:晩秋〜初冬に漬けて、正月に食べる冬のごちそう
  • 注意:家庭で手作りする場合は、食中毒を防ぐため、温度管理や衛生管理に十分な注意が必要とされている
ミナ保存食で、お正月のごちそうで、寿司のご先祖さま。小さな樽に、ずいぶんいろんなものが詰まってる。

第3幕
ひと口目は、何もつけずに|いずしの食べ方

源さんが小さな樽のふたを開け、小皿にひと口分だけ取り分けた。

ミナお醤油は?
源さんまだだ。最初は何もつけずに食え。麹の甘み、乳酸の酸味、魚の脂、野菜の歯ざわり。それが一度に来る。
ミナ……酸っぱいのに、甘い。あとから脂のコクが追いかけてきます。
源さんそれが素の味だ。覚えたら、味を変えていけばいい。

ミナの取材メモ|いずしの食べ方5通り

  • キンキのいずし
    そのまままずはこれ発酵の酸味と旨みを素直に楽しむ。初めてなら、まずはこれ
  • 黒い石皿に盛ったキンキのいずしと、わさびと醤油
    わさび醤油塩気と辛みが加わり、ご飯やお酒が進む
  • オーブントースターで、いずしを軽く焼いている
    軽く炙る魚の脂が香ばしくなり、発酵の香りがやわらぐ
  • 白いお粥に、ほぐしたキンキのいずしと刻んだ大葉をのせている
    白ご飯・雑炊にのせる塩気と酸味が、ご飯のおかずになる
  • いずしに大葉と大根おろし、柚子こしょうを添え、お猪口と徳利を並べている
    大根おろし・大葉・柚子こしょうを添える酸味がすっきりし、脂の重さが軽くなる

※写真はイメージです

ミナここまで来たら、あとは……。
源さん酒だな。

第4幕
洗うか、寄り添うか|いずしに合うお酒

洗う酒 泡と炭酸で 脂と塩気をさっぱり 寄り添う酒 日本酒 白ワイン 米の旨み 乳酸の酸味 いずしと同じ要素をもつ お酒が、味に重なり合う
洗う酒:ビール・スパークリング・ハイボール・炭酸水など/寄り添う酒:日本酒・白ワイン・米焼酎など
ミナ発酵の酸味に、塩気に、脂。合わせるお酒、難しそう。
源さん考え方は二つだけだ。味を洗い流す酒か、味に寄り添う酒か。どっちかを選べば外さねえ。
ミナ寄り添う代表は?
源さん日本酒だな。いずしは米と米麹から生まれる。同じ米の旨みを持つ酒とは、相性が自然なんだ。辛口の純米を、冷やかぬる燗で。脂の強い魚なら、少し温度を上げるとまとまる。
ミナ洗う代表は?
源さんビールやスパークリング、ハイボール。泡と炭酸が、脂と塩気をさっぱりさせてくれる。炙ったいずしなら、ビールやハイボールがいい。
ミナワインは?
源さん白がいい。リースリングやアルバリーニョ、辛口のシャルドネ。いずしの乳酸の酸味とワインの酸がうまく呼応して、脂の後味を引き締める。赤なら、渋みの少ないピノ・ノワールを、わさび醤油や炙りと合わせるくらいだな。

ミナの取材メモ|避けたい組み合わせ

  • 渋みの強い赤ワイン:タンニン(渋みのもとになる成分)が、魚の脂や発酵の風味とぶつかりやすい
  • 甘口の果実酒・甘いカクテル:塩気と酸味が際立ちすぎて、味が乱れやすい
  • 香りがとても強いお酒:麹や魚の繊細な香りを覆ってしまう
源さんそれと、飲まない日は炭酸水か麦茶、緑茶でいい。塩気と脂をリセットしてくれて、発酵の風味も邪魔しない。

エピローグ
北のキンキに、北のシャルドネ

その夜、ミナの部屋。テーブルには、小さな木樽と、北海道産のシャルドネが一本。

ミナ源さん、最後に答え合わせです。このキンキのいずしには、何を?
源さんキンキは脂の濃い高級魚だ。それを米と米麹で、真冬の氷点下に漬け込んである。酸味と脂、両方が強い。
ミナだから、酸で脂を引き締める白ワイン……。
源さんしかも同じ北海道のシャルドネだ。同じ北の寒さの中で生まれたもの同士、酸味がすっきり立って、キンキの旨みがきれいに残る。
ミナ……おいしい。寿司のご先祖さまと、ワインが仲良くしてる。
源さん室町の昔から続く知恵に、今夜の一杯を合わせる。酒は、洗うか、寄り添うか。それさえ覚えときゃ、いずしはもう怖くねえ。

酒は、
洗うか、寄り添うか。

早見表
今夜の一杯を選ぶなら

  • 白い徳利とお猪口

    日本酒

    寄り添う

    辛口の純米酒、やや旨口の純米酒

    米の旨み同士が調和

    そのまま軽く炙って

  • 白ワインを注いだグラス

    白ワイン

    寄り添う

    リースリング、アルバリーニョ、辛口シャルドネ

    乳酸の酸味とワインの酸が呼応

    そのまま野菜多めのいずし

  • 赤ワインを注いだグラス

    赤ワイン

    寄り添う

    渋みの少ないピノ・ノワール

    重すぎない果実味

    わさび醤油炙り

  • 氷を入れた焼酎のグラス

    焼酎

    寄り添う

    米焼酎・麦焼酎の水割り、お湯割り

    米焼酎は米麹の風味とつながる

    炙り塩気強めのいずし

  • 泡のたったビールのグラス

    ビール

    洗う

    ラガー、ピルスナー

    炭酸と苦みで脂と塩気をリセット

    わさび醤油炙り

  • レモンを浮かべたハイボール

    ハイボール

    洗う

    スモーキーすぎないウイスキー

    炭酸で脂をリセット、香ばしさをプラス

    炙り

  • スパークリングワインを注いだ2つのグラス

    スパークリング

    洗う

    辛口のスパークリング、シャンパン

    泡が脂を流し、軽やかにまとまる

    そのまま前菜として少量

  • 漆の盆にのせた2つのお茶のグラス

    ノンアルコール

    洗う

    炭酸水、麦茶、緑茶

    発酵の風味を邪魔しない

    そのまま

※お酒との相性は一般的な目安です。いずしの魚の種類や味つけ、お好みに合わせてお楽しみください。

シーン別
いずしの楽しみ方

  • 平日の夜小皿にひと口分。日本酒なら半合ほどから。晩酌の最初の一皿に
  • 休日の昼白ワインやスパークリング、または炭酸水や緑茶と軽やかに
  • 冬の夜軽く炙って、ぬる燗やお湯割りの焼酎と
  • 来客の日「そのまま」「わさび醤油」「炙り」の3通りで出し、日本酒・白ワイン・ビールを並べて好みで

ミナと源さんが味わった「キンキのいずし」は、松丸産直デパートでお取り寄せいただけます。

捜査の結論|北のシャルドネと合わせるなら
【ペアリングにお手軽おつまみ】高級魚キンキのいずし

松丸産直デパートおすすめ

【ペアリングにお手軽おつまみ】
高級魚キンキのいずし

手がけるのは、北海道で90年以上にわたって飯寿司の技術を受け継いできた老舗、中井英策商店。北の海が育んだ高級魚・キンキを、米と米麹とともに真冬の氷点下で漬け込んだ、寒冷地ならではの発酵食です。

発酵特有の酸味とキンキの濃厚な旨みは、白ワインにも日本酒にも寄り添います。物語のエピローグのように、同じ北海道産のシャルドネと合わせれば、酸味がすっきりと引き立つ大人のペアリングを楽しめます。

内容量
140g(木樽入り)/300g(樽箱入り)
賞味期限
冷凍で4か月
産地
北海道(中井英策商店)
配送
産地から直送(ご注文から10日以内に発送)

¥4,212140g・税込・送料無料

商品ページを見る
箸で持ち上げた、ビーフ・ズーシーのひと切れ 食べ比べに和牛の飯寿司「ビーフ・ズーシー」同じ中井英策商店が、いずしの製法を北海道の和牛に応用。大吟醸や熟成白ワインとも好相性です。商品ページを見る

調査報告
まとめ

  • いずしは、米で発酵させる「なれずし」の流れをくむ、寿司のご先祖さま
  • 北海道のいずしは米麹を使い、魚・米・野菜を漬け込んで低温で発酵させる
  • 晩秋に漬けて正月に食べる、北海道の冬のごちそう。魚や味は家ごとにさまざま
  • 初めてなら、まずは何もつけずに。わさび醤油や炙りで味の変化も楽しめる
  • お酒は「洗う」か「寄り添う」か。日本酒や白ワインは寄り添い、ビールや炭酸は洗い流す

室町の昔から続く発酵の知恵に、
今夜の一杯を合わせて。
冬の晩酌に、
いずしを迎えてみてはいかがでしょうか。

お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。妊娠中・授乳期の飲酒は控えましょう。