ホタテ探偵、北へ|同じホタテなのに、なぜ違う?産地と育て方でわかる選び方

ホタテ探偵、北へ|同じホタテなのに、なぜ違う?産地と育て方でわかる選び方

読みもの|ホタテの産地をめぐる北の海の
事件簿
同じホタテなのに、なぜ違う?

この物語はフィクションです。登場人物は架空の人物で、人物の写真はイメージです。生産量のデータや産地の情報は、公的な統計や報道、産地の資料にもとづいています。

スーパーや通販でホタテを選ぶとき、「北海道産」と「青森県産」、「刺身用」と「ボイル」の前で、手が止まることはありませんか。同じホタテなのに、大きさも値段も違います。

実はその違いは、ホタテが育った「海」と「育て方」に隠れています。この記事では、新人ライターのミナと、ベテラン仲卸の源さんと一緒に、北の3つの海をめぐりながら、ホタテの産地と育て方の違い、料理に合わせた選び方を解き明かしていきます。

プロローグ
同じホタテなのに、なぜ違う?

ミナ

ミナ

グルメ雑誌の新人ライター。ホタテ特集を任されたが、知識はゼロ。

源さん

源さん

長年、貝を扱ってきた仲卸。口は悪いが、説明は的確。

夕方のスーパーの鮮魚売り場。ミナは2つのパックを手に、首をかしげている。

ミナこっちは「北海道産・刺身用」で大粒。こっちは「青森県産・ボイル」で小粒。どっちもホタテなのに、なんでこんなに違うの?
源さんいい質問だ。答えは海の中にある。ついてきな、北の海を3つ回るぞ。

第1幕
ホタテの産地はどこ? 生産量の約8割は北海道

農林水産省の統計によると、2022年のホタテの全国生産量は約51.2万トン。そのうち北海道が約42.5万トン、青森県が約7.8万トンで、2つの道県だけで全体の約98%を占めています。

※下の表の数値から計算した割合です。

源さんまずは地図を頭に入れろ。ホタテの国は、ほぼ北海道と青森の2つだ。
ミナ宮城や岩手は?
源さんある。だが桁がひとつ違う。それと、北海道と青森じゃ「育て方」が逆なんだ。表の列をよく見ろ。

表は横にスクロールできます →

地域 漁獲量(地まき式が中心) 養殖収穫量(垂下式) 合計
北海道 約33.96万トン 約8.55万トン 約42.51万トン
青森県 約0.04万トン 約7.79万トン 約7.83万トン
宮城県 ほぼ0 約0.68万トン 約0.68万トン
岩手県 約0.004万トン 約0.19万トン 約0.19万トン
全国 約34.0万トン 約17.21万トン 約51.21万トン

出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」2022年(令和4年)

オホーツク海 太平洋 日本海 三陸沖 第2幕 オホーツク海沿岸猿払村・枝幸町など 第3幕 噴火湾洞爺湖町・八雲町など 第4幕 陸奥湾平内町・青森市など 第4幕 三陸沿岸岩手・宮城
ミナと源さんの調査地図。オホーツク海・噴火湾・陸奥湾・三陸の位置関係(地形は簡略化したイメージです)
ミナ北海道は「漁獲」が多くて、青森はほぼ全部「養殖」……!
源さんそう。これが、大粒と小粒の違いにつながる最初の手がかりだ。

第2幕
オホーツク海の「地まき式」|海底で育つ大粒ホタテ

北海道の漁獲量の大半を生み出しているのが、オホーツク海沿岸です。猿払村(さるふつむら)、枝幸町(えさしちょう)、北見市常呂(ところ)などの産地が並び、なかでも猿払村は、ホタテの水揚げ量で全国トップクラスの産地として知られています。

ミナここのホタテは、どうやって育つんですか?
源さん「地まき式」だ。小さな稚貝を海底にまいて、3〜4年ほどかけて育てる。大きくなったら、底引き網で獲るんだ。
漁船の上から、かごに入った稚貝を海にまく漁業者
証拠写真①稚貝を海にまく。ここから3〜4年、海底で育つ(地まき式)
ミナ3〜4年も!
源さん冷たい海と広い漁場で、ゆっくり育つからな。貝柱が締まって肉厚になる。甘みも旨みも濃いし、噛むと弾力がある。

ミナの取材メモ|オホーツク海

  • 育て方:地まき式(稚貝を海底にまき、底引き網で漁獲)
  • 特徴:大粒で肉厚。濃い甘みと旨み、弾力のある食感
  • 向いている料理:刺身、バター焼き、フライ。火を通しても身がやせにくい
ミナスーパーの「大粒・刺身用」の正体は、これか。
器に盛った、大粒で肉厚なホタテの貝柱(刺身用)
証拠写真②大粒で肉厚な貝柱。「刺身用」の正体

第3幕
噴火湾の「垂下式養殖」|海中で育つやわらかなホタテ

穏やかな湾の海面に、養殖施設の浮き玉が点々と並ぶ 現場|噴火湾
湾の海面に、養殖施設の浮きが点々と並ぶ

同じ北海道でも、南西部の噴火湾(内浦湾)は、北海道の養殖ホタテの中心地です。洞爺湖町、豊浦町、八雲町などで、海底ではなく、海の中でホタテを育てています。

ミナ海の中? 浮いてるんですか?
源さん「垂下式(すいかしき)養殖」だ。稚貝をロープやかごにつけて、海の中に吊るして育てる。カーテンみたいにな。
海の中で、ロープに連なって吊るされて育つホタテ
証拠写真③海の中に、カーテンのように吊るされて育つ(垂下式養殖)
ミナオホーツクとは真逆ですね。
源さん湾の中は栄養が豊富だから、身がやわらかくて、甘みが繊細になる。オホーツクが「力強い」なら、こっちは「上品」だ。

ミナの取材メモ|噴火湾

  • 育て方:垂下式養殖(ロープやかごで海の中に吊るす)
  • 特徴:身がやわらかく、甘みが繊細
  • 向いている料理:ボイル、むき身、軽く炙る料理
地まき式垂下式養殖 海底にまいて育てる 海の中に吊るして育てる
地まき式と垂下式養殖の違い(イメージ)
ミナ同じ北海道産でも、オホーツクか噴火湾かで、選び方を変えたほうがいいんだ。

第4幕
陸奥湾と三陸|ベビーホタテと、海の変化

山の上から見下ろした、町並みと穏やかな湾 現場|陸奥湾
山の上から見下ろした陸奥湾

青森県の陸奥湾(平内町、青森市、今別町など)では、県のホタテ生産のほとんどが垂下式養殖です。多い年には10万トンを超える生産量がありましたが、2023年以降は夏の高水温による大量死が相次ぎ、2026年度は年間の水揚げ量が1万トンを割り込み、8千トン前後にとどまる可能性があると報じられています。

ミナ最初に手に取った青森産の小粒、あれは?
源さん陸奥湾は、育てる期間が比較的短い。だから小ぶりなうちにボイルして、むき身の「ベビーホタテ」として出すことが多いんだ。
器に盛った、ボイルした小ぶりなホタテのむき身
証拠写真④小ぶりなうちにボイルした「ベビーホタテ」
ミナ小さい分、味は薄い?
源さんそうとも限らねえ。旨み成分が多くて、味が濃いとも言われてる。……ただな、最近は海が熱すぎる。生産量が大きく減った年が続いてる。
ミナホタテ特集なのに、気候の話になってきた……。
切り立った岩場と入り組んだ入江が続く、青い海の海岸 現場|三陸
入り組んだ入江が続く三陸の海岸

帰り道、源さんはもうひとつの産地にも触れた。岩手県・宮城県の三陸沿岸も、主に垂下式養殖でホタテを育てている。2022年の生産量は、宮城県が約0.68万トン、岩手県が約0.19万トン。規模は小さいが、湾ごとにボイル用・冷凍用・生食用など、用途を分けて出荷している。

ミナの取材メモ|陸奥湾・三陸

  • 陸奥湾:ほぼすべてが垂下式養殖。育てる期間が比較的短く、ベビーホタテが多い。2023年以降、高水温で大きく減産
  • 三陸:垂下式養殖が中心。生産量は小さく、用途別に出荷

陸奥湾の生産量:共同通信(2026年8月)、ABA青森朝日放送(2026年10月)の報道による

エピローグ
「天然」ホタテの種明かし

売り場に戻ったミナは、もう迷わない。ただ、最後にひとつだけ、引っかかっていることがあった。

ミナオホーツクのホタテは「天然」って書いてありました。養殖じゃないんですよね?
源さん半分正解だ。地まき式も、人が育てた稚貝を海底にまいてる。正確には「栽培漁業」だ。海に預けて、海に育ててもらうやり方だな。
ミナじゃあ、どこのホタテも、人の手から始まってるんだ。
源さんそういうことだ。違うのは、預ける場所が海底か、海の中かだけだ。

違うのは、
預ける場所が
海底か、海の中かだけ。

早見表
売り場で迷ったら|ホタテの選び方

表は横にスクロールできます →

選びたいもの 主な産地 育て方 おすすめの使い方
大粒・弾力・濃い旨み 北海道オホーツク海沿岸(猿払村、枝幸町など) 地まき式(栽培漁業) 刺身、バター焼き、フライ
やわらかく繊細な甘み 北海道噴火湾(洞爺湖町、八雲町など) 垂下式養殖 ボイル、むき身、軽い炙り
ベビーホタテ・むき身 青森県陸奥湾(平内町など) 垂下式養殖 ボイル済みのむき身
用途に合わせて選びたい 岩手・宮城の三陸沿岸 垂下式養殖が中心 ボイル、冷凍、生食

※味や食感の特徴は一般的な傾向です。同じ産地でも、時期や個体によって違いがあります。

事件簿を閉じる前に、ひとつだけ。物語で最初に訪ねたオホーツク海のホタテは、松丸産直デパートでも取り扱っています。

捜査の結論|刺身で味わうなら
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産地
北海道オホーツク
賞味期限
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調査報告
まとめ

  • 全国のホタテ生産量の約8割が北海道。青森県と合わせると約98%を占める(2022年)
  • オホーツク海の地まき式は、海底で3〜4年ほどかけて育つ大粒で肉厚なホタテ
  • 噴火湾の垂下式養殖は、海の中で育つ、やわらかく甘みの繊細なホタテ
  • 陸奥湾はベビーホタテが多く、2023年以降は高水温の影響で生産量が大きく減っている
  • 「天然」とされる地まき式も、人が育てた稚貝から始まる「栽培漁業」

産地と育て方を知れば、
ホタテ選びはぐっと楽しくなります。
刺身で味わうならオホーツクの大粒、
ボイルやむき身なら噴火湾や陸奥湾と、
料理に合わせて選んでみてください。