A close-up shot of a seared bonito steak on a plate next to a bottle of Budweiser beer, set on a dimly lit table

旬を炙る。初鰹とバドワイザーのマリアージュ。

初鰹のレアステーキに合わせるお酒として、なぜバドワイザーなのか

今回、私は「初鰹のレアステーキ」に合わせるお酒として、バドワイザーを提案したい。
カツオといえば刺身やタタキが一般的だが、今回はあえて表面を香ばしく焼き上げた「レアステーキ」に仕立てている。
この火入れの塩梅がもたらす“野趣と繊細さの同居”は、選ぶ酒によっては浮いてしまうこともある。

日本酒では香りが勝ちすぎ、IPAでは苦みが角を立ててしまう──。
そんな中で、料理と調和する“空気のような存在”として、私はバドワイザーを選んだ。

初鰹を“ステーキ”にする意図と魅力

この料理の主役は、もちろん初鰹である。
春の海を駆け抜けたばかりの初鰹は、脂のりが少なく身が締まり、あっさりとした風味が魅力。
だが、そのまま刺身として食べるには、どこか物足りなさを感じることがある。

そこで、片面あるいは両面だけを強火で炙り、ミディアムレアに仕立てた。
表面の焼き目から立ち上る香ばしさと、芯に残る清涼な赤身のコントラスト。
それはまるで、野山を駆ける若者が一瞬だけ立ち止まり、夕陽を背にするような美しさを持っている。

バドワイザーというビールが持つ、独特の“軽やかさ”

バドワイザーは、1876年にアメリカ・ミズーリ州で誕生したラガービールだ。
創業者のアドルフ・ブッシュは、ドイツから移民した醸造家。
「どんな食事にも合い、誰もが気軽に楽しめる」ことを目指してこのビールを作った。

結果として生まれたのは、ピルスナータイプの中でも“特別にクセがない、軽やかな一杯”。
それは、アメリカ全土で「食卓の風景」に定着し、
やがて第二次大戦後には世界中に輸出されるようになる。

日本においても1980年代〜90年代、一部のバーやクラブでは“都会的アイコン”として扱われていた。
特に、ウイスキーやカクテルが主流だった時代において、
バドワイザーは“洋楽が流れる空間で手に取る、ちょっと洒落たビール”というポジションを築いたのだ。

ラベルの赤と白のコントラスト、王冠を象ったロゴ、そしてあの独特の瓶のフォルム。
バドワイザーには、アメリカ的な自由と軽快さが凝縮されている。
それはまるで、初鰹のレアステーキが持つ「旬の奔放さ」と「潔いミニマリズム」に、どこか通じるように感じられた。

なぜ「軽いビール」がこの料理に合うのか

このマリアージュの妙は、「押し合わない」ことにある。
たとえば重めの赤ワインやバーボンを合わせれば、それはそれで悪くはない。
だが、初鰹の“若々しさ”や“青さ”までも活かそうとすれば、
その余白にスッと入り込んでくれる軽やかな酒がふさわしい。

炭酸の泡が、焦げの香ばしさをほんの少しずつ洗い流し、
次の一口をまるで「初めて食べるかのように」感じさせてくれる。
その繰り返しの中で、ステーキは刺身以上に“終わらない料理”になる。

このマリアージュがもたらす時間

一日の終わりに、火を通す寸前で止めた鰹の一皿と、軽やかなビールを合わせる。
この行為そのものが、どこか“誰にも邪魔されないひととき”を象徴しているように思える。

何も言わず、口に運び、また飲む。
派手な演出や語られるべき物語がなくても、その“静けさ”が心地いい夜もある。
そんなとき、バドワイザーと初鰹のレアステーキは、肩の力を抜かせてくれる。

プロフィール

鈴木海人 – バーテンダー/俳優

イベントバーテンダー・カクテルレシピ考案 / Vtuber「上戸アペリ」総合運営

「一杯の酒に、人生の余韻を。」
都内バー勤務を経て、現在はオンライン配信を拠点に活動。クラシックなカクテルから、季節のハーブや自家製ボタニカルを用いた一杯まで、記憶に残る味と香りを設計する。酒の知識だけでなく、音楽、言葉、香りを複合的に操る感性で、グラスの中に世界観を築き上げるスタイルが特徴。
“飲むことで、誰かの心が少しほどけるなら”——そんな想いを胸に、日常と非日常のあわいに立つバーテンダー。あなたの夜に、静かで鮮烈な余韻を届ける。

鈴木 海人